インタビュー

著名人からのインタビュー

オリーブオイルの愛好家は世界中にいます。様々な分野の方に美味しいだけではない、その人気の理由と使い方を語っていただきます。

【第18回】
オリーブオイルは「だし」そのもの。
うまいだし汁の香りや味は、のどごしがよく、
日本人の細胞にも自然に沁みこむ。

東京・築地の料亭
「つきぢ田村」三代目
田村 隆 さん

「築地でおいしいものが食べたい」という築地に暮らす財界人たちの声に応え、昭和21年に誕生した日本料理の名店「つきぢ田村」。 その三代目・田村隆さんといえば、ユーモアあふれる人柄と丁寧な指導で人気が高く、TV、講演、雑誌や書籍などを通じて和食文化の普及と伝承に幅広く活躍しています。IOCキャンペーンにもご助力いただき、最近ではお店の料理にもオリーブオイルが登場。手軽にオリーブオイルを使うヒントとお料理上手になるコツを伺いました。

オリーブオイルは、だしと同じような感覚で使うといいんです。

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― 焼き豆腐とオリーブオイルで作ってくださった野菜のディップは、本当に絶品でした。

田村:
旬野菜の白アウェイ(和え)」ですね。今回のインターナショナル・オリーブ・カウンシルのキャンペーンでは、キックオフの段階から関わらせていただき光栄です。オリーブオイルという素晴らしい食材をあらためて知る数々の学びがありました。テイスティング経験などを通じて、フレッシュで五味溢れる様々なオリーブオイルを味わう機会に恵まれ、私がそれまで知っていたオリーブオイルがいかに「ぶしょっていたか」ということを知りました。この経験は、頭をガツンと殴られるような衝撃でした。

― 「ぶしょる」というのは?

田村:
オリーブオイルの世界の言葉に置き換えれば「ディフェット」でしょうか。実を収穫して絞るまでに時間が経ち過ぎたものや、保管状態が悪く酸化したものなど。フレッシュな本物のオリーブオイルを知らなければ、それが「ぶしょっている」ことにも残念ながら気づきません。日本にはオリーブオイルの品質規格そのものがないため、エキストラバージンのオリーブオイルでなくても「エキストラバージン」という表示がつけられると聞きました。祖父は「本物を知らないと、まずいもんがわからん」と常に言っていました。やはり良いものを知ることが一番重要です。

― 田村さんは素材を無駄にしないため「ゴールを先にしない」とよく言われていますね。

田村:
命あるものはすべて、自然と戦うことによって育まれたものです。私たち料理人は、それを横取りして、なまいきな顔で料理しています。だから、素材に対する感謝を忘れたら、また材料を無駄にしたら、それこそ本末転倒。ぶしょらせちゃ、いけません。

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― オリーブオイルもまったく同じですね。

田村:
大根を例にとれば、大根ってのは丸ごと使える野菜の代表格です。今回作った野菜の「生野菜」のレシピでは、生野菜をせん切りにしてエキストラバージン・オリーブオイルで作ったたれにつけていただくものです。ただし料理人であれば、桂剥きから始めちゃダメです。まず、皮を厚めに剥いたら刻んでザルにあげて干しておく。次に葉の部分にある中心の軸を刻んで炒め、調味して佃煮にする。「全部使い切る」ための作業を優先したら、自然と無駄なく使えるんです。

― 桂剥きというのは、包丁の技術を身につける剥き物の基本だそうですね。

田村:
桂剥きはプロの技。すべての包丁使いの基本です。でも、ぜひみなさんは手軽にスライサーで作ってください(笑)。ただし、繊維にそって切ると、シャキシャキの食感が味わえます。大根のように「全部を使い切る」ための作業を優先したら、自然とどんな素材でも無駄なく使えるものです。だから、まかないってのは、こういう練習が真剣にできるいい機会です。若い人たちには、料理を教えるというよりも、こういう「いい当たり前」を教えたいと思っています。

― オリーブオイルと日本食との相性はどんなふうにお感じですか?

田村:
だし汁とよく合いますね。オリーブオイルは、だしそのものです。日本料理に使う昆布やかつお節は、長い長い時間と手間をかけてつくられます。料理人はそれを横取りして、数分でうまいだし汁をひいてしまいます。そこにフレッシュなオリーブオイルを組み合わせると新たな調和が生まれ、コクが出てまろやかさが増します。うまいだし汁の香りや味は、のどごしがよく、日本人の細胞に自然に流れ入りますが、そこにオリーブオイルの風味が織り込まれて、見事なハーモニーを生みます。

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― 食卓で手軽に使えるオリーブオイルを使ったレシピをぜひ教えてください。

田村:
オリーブオイルは、だしと同じような感覚で使うといいんです。たとえば、みそ汁にたらす。刺身の醤油と合わせる。そうめんのつゆにも最後に付け足す。ラーメンに入れるのもおいしいですよ。動物性の脂ではないさっぱりとしていながらも濃厚なオリーブオイルのフレッシュな油膜が、麺をすするたびに絡みついて、普通のそうめんもラーメンも格段にバージョンアップします。

― 卵かけご飯にも合うと伺いました。

田村:
「オリーブオイルの卵かけご飯」はこのうえない味わいです。普通の卵かけご飯にほんのひと手間かけてください。まず、卵を黄身と白身に分けます。先に白身のほうを熱々のご飯に入れて、よく混ぜ合わせます。すると苦手な人も多いあの白身独特のずるりとした食感が消え、ふわふわっとしたメレンゲのような軽さがでます。それからご飯の真ん中をくぼませ、黄身のおさまる場所をこしらえて黄身を落としたら、あとはオリーブオイルと醤油をたらしていただきます。

料理を味わって幸せになること。それが一番の目的です。

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― 本日の3品について、説明をお願いします。

田村:
ご飯と副菜2品の献立のイメージです。味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の「五味」があります。これを上手く組み合わせて、味つけが重ならないよう、こってりしたものとさっぱりしたものを考えました。 「高菜ごはん」といえば、よくあるのは、高菜をごま油で炒めて水分をとばしてご飯に混ぜて作ります。今日は、オリーブオイルのフレッシュな香りを生かし、高菜を刻んで水気を手でキュッとしぼったら、炒めずにオリーブオイルを混ぜこみました。これをおにぎりにして茶漬けにしてもおいしいですよ。

― 「生野菜」はこのレシピ以外でも、好みの野菜を使っても楽しめますか?

田村:
もちろんです。今は一年中いろいろな食材が手に入りますが、旬の食材は、おいしく、栄養豊富、値段も手頃といいことずくめです。いろいろな食材を使うことで、栄養バランスのよい食事になります。見た目、食感、味にも変化がつきます。今日はころんと丸みを帯びた中が鮮やかな紅色をした赤芯大根(こうしんだいこん)も使ってみました。辛みが少なく、ほんのり甘みと少しの苦味があり、煮物より生のほうが美味しいんです。シャキシャキを楽しむためにも、ドレッシングのように混ぜ合わせず、つゆにつけながらいただきます。すると、野菜をつけて上げるときにオリーブオイルが表面に絡まって口に入り、香りが豊かになります。

― 料理が上手になる秘訣があれば教えてください。

田村:
「料理をあまり難しく考えないでほしい」ということをいつもみなさんにお伝えしています。もちろん、料理には守らなければいけない原則がありますが、大切なのは楽しむこと、美味しいこと、そして料理を味わって幸せになることです。だから難しく考えず、ぜひ楽しみながら料理を作ってください。作れば作るほど、上手になるし、コツもわかってきます。そうそう、ちなみに大根の面取りは必要ありません。

― 煮崩れないよう大根の面取りをしましょう、とレシピ本にはよく書かれています。

田村:
だって、大根は煮崩れないでしょ? ほかにも煮物でよくするアルミホイルの落としぶたも、真ん中に穴を開けちゃいけません。落しぶだで煮汁の対流を作って素材に味を浸み込ませるのが目的ですから。竹串を刺して中まで火が通ったか、やわらかく煮えたかどうか確かめるやり方も多くの人が間違っています。刺すのは竹串のとんがっているほうではなく、反対の尖っていないほうです。とんがっているほうがすーっと入っていくのは当たり前でしょ。

― 最後にメッセージをお願いします。

田村:
毎日のお料理をぜひ楽しんでください。オリーブオイルを例えるなら、女性がメイクの最後の仕上げに使う口紅のようなものでしょうか。そのひと塗りでその人(素材)が本来持っている美しさをパッと輝かせます。どんな料理とも相性はいいので、失敗を恐れず、気軽に普段の日常の食卓で楽しんでみてはいかがでしょう。

「高菜ごはん」

高菜ごはん

【材料】

高菜の漬物 適量(みじん切り)
エキストラバージン・オリーブオイル 適量
温かいご飯 適量

【作り方】

  • 刻んだ高菜の漬物の水けを絞り、オリーブオイルを加えて混ぜる。
  • ①を温かいご飯に混ぜる。
「生野菜」

生野菜

【材料】

大根 適量
にんじん 適量
日本かぼちゃ 適量
紫玉ねぎ 適量
きゅうり 適量
赤芯大根(こうしんだいこん) 適量
刻んだピーナッツ 適量
<オリーブオイルの和風つゆ>
濃口醤油 大さじ4
煮切りみりん 大さじ3
大さじ3
だし 大さじ2
エキストラバージン・オリーブオイル 大さじ1

【作り方】

  • お好みの野菜を長さ5センチほどに切り、繊維に沿ってせん切りにする。
  • オリーブオイルの和風つゆの材料を混ぜる。野菜を和風つゆにつけていただく。
「マッシュルームの土鍋仕立て」

マッシュルームの土鍋仕立て

【材料】

ブラウンマッシュルーム 大きいサイズのもの1個(4等分)
チンゲン菜 1枚(さっと茹でる)
だし汁 150cc
うす口醤油 大さじ1
エキストラバージン・オリーブオイル 小さじ1
水溶き片栗粉 大さじ1
刻んだピーナッツ 適量
海老 1尾(さっと茹でる)
おろししょうが 適量

【作り方】

  • フライパンにオリーブオイルとブラウンマッシュルームを入れ炒め、土鍋に盛る。
  • だし汁を注ぎ入れ、醤油をさっと回し入れる。
  • 沸騰したら水溶き片栗粉を加え、とろみを付ける。
  • 火を止め、チンゲン菜と海老、しょうがを飾り、③をかける。

調理協力:熊倉 和洋(つきぢ田村)

プロフィール

プロフィール

田村 隆さん/東京・築地の料亭「つきぢ田村」三代目
1957年東京生まれ。玉川学園大学卒業後、大阪高麗橋の「吉兆」で3年間修行し、「つきぢ田村」本店へ。初代で祖父の平治、二代目で父の暉昭から受け継いだ伝統を守りつつ、新しい味・味覚・試みを積極的に取り入れている。主著書に『隠し包丁』『返し包丁』『田村隆の和食入門』『つきぢ田村の隠し味365日』『日本料理の基本』『ご飯が炊けるまで一汁三菜』等。2010年「現代の名工」厚生労働大臣賞受賞。

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