インタビュー

著名人からのインタビュー

オリーブオイルの愛好家は世界中にいます。様々な分野の方に美味しいだけではない、その人気の理由と使い方を語っていただきます。

【第12回】
国産オリーブオイルでブランドを高めている香川県小豆島産オリーブオイル。
品質向上に取り組む小豆オリーブ研究所の活動に迫ります。

香川県農業試験場小豆オリーブ研究所 主席研究員
柴田 英明

日本におけるオリーブ出荷量ナンバーワンの香川県。瀬戸内海に面している香川県小豆島は、国産オリーブ発祥の地でもあります。今回、お話を伺ったのは、国内唯一のオリーブ研究所の研究員にして、小豆島を海外産地と競争できるよう助言し、品種導入や採油機械の導入にも尽力し、オリーブ業界をけん引している柴田英明さんです。

小豆島でオリーブ栽培が成功したのはオリーブを愛する農家さんのたゆまぬ努力のたまもの

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― 国産オリーブの発祥は香川県の小豆島ですが、やはり小豆島の気候がオリーブ栽培に適していたからでしょうか?

柴田:
結論から申しあげると、「小豆島の気候がオリーブ栽培に適していたか」の答えは「ノー」です。
せっかくですから、少し、日本でのオリーブ栽培の歴史をふりかえってみましょう。 香川県小豆島でオリーブの栽培試験が始まったのは1908年(明治41年)です。当時オリーブオイルの国内自給を計画していた農商務省の指定により三重、香川、鹿児島の3県で試験栽培が行われました。
香川県では小豆島に苗木を植え付けしました。小豆島ではその2年後に開花・結実し、加工試験が始まります。

― 小豆島だけが栽培に成功したのですね。

柴田:
現在では三重、鹿児島の両県でもオリーブはしっかり育っています。台風の影響等で両県に比べ香川県小豆島の生育が良かったのかもしれません。1911年(明治44年)には石臼を使って搾油し、1914年(大正2年)には農商務省の補助で搾油機が整備されてオイルが搾られるようになりました。なお平成25年産のオリーブ果実収穫量では国内の96.5%を香川県が占めています。

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― 小豆島のある瀬戸内海が温暖で雨が少なく、オリーブのふるさとである地中海によく似ていたからといわれていますが。

柴田:
それも「ノー」です。小豆島でオリーブ栽培が成功した理由は、ひとえに「オリーブを愛する農家さんによる、たぐい稀なる努力のたまものである」というひと言に尽きます。
世界のオリーブ主要産地である地中海と瀬戸内海は年間降水量が少ないという点では似ているように思えますが、雨の多い時期が全く逆です。日本では6月の梅雨を始め7,8,9月の台風時期等夏に多くの雨が降ります。それに対して本場地中海エリアでは夏はほとんど雨が降らず、秋冬に雨が降ります。
日本のオリーブは、5月下旬春に花を咲かせ、6月から9月にかけて実を大きく成長させていきます。 果実を育てる大切な時期に日射量が少ないというのは非常に不利です。オリーブ先進国では日射量の多い中、潅水量をコントロールしながらオリーブを育てています。 それに湿度が高いと病気が出やすくなりますし、オリーブは根がもろいため台風による倒木もあります。 また日本には東アジアにしか生息しないオリーブアナアキゾウムシがいたため、農家はその被害対策にも悩まされ続けてきました。
こうしたなか地元農家の皆さんのたゆまない努力の積み重ねによって、オリーブ栽培の成功へとつながったと考えています。

日本のオリーブオイル生産の大きな転機となったイタリア・スペインからの技術導入

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― 香川県小豆島のオリーブオイルの特色を教えてください。

柴田:
2008年、小豆島のオリーブは植栽100周年を迎えました。香川県小豆島のオリーブオイルの良さは「新鮮で美味しい」です。
栽培、収穫から採油、瓶詰まで管理が行き届いており、世界規模のオリーブオイル品評会で好成績を収めるなど、世界的にも高い評価が定着しています。

― 「新鮮、美味しい」を小豆島ではどのように実現しているのでしょう。

柴田:
ポイントは3つです。世界的にみると非常に比率の低い「手摘み」という収穫方法をとっている点。この方法は、作業効率は悪いものの、実も木も傷めることなく、もっとも適した収穫時期に、樹上選果を行いながら、一粒一粒を確認しながら収穫することを可能にしています。
次に、収穫後すぐに採油している事。果実は樹から離れた瞬間から劣化が始まります。そのため収穫後少しでも早く採油することが重要です。そのため香川県産オリーブオイルは収穫から採油までの適切な管理を行うことで低下する遊離酸度が100gあたり0.1〜0.2gがほとんどです。

― インターナショナル・オリーブ・カウンシル(IOC)が定めるエキストラバージン・オリーブオイルの規定は、100gあたり0.8g以下ですから、0.1〜0.2gという数字はかなりの高レベルですね。どのように技術を高めたのでしょうか。

柴田:
その前に3つ目のポイントです。遊離酸度の低さがオリーブオイルにとって最も大切なことではありません。官能評価による味、香りのチェックが最も大切です。仮に遊離酸度が0.1未満であっても、官能評価が低評価では意味がありません。現実に国際オイル品評会では遊離酸度は低いが官能評価で失格するものもあります。また後で詳しく説明しますが、化学検査項目には遊離酸度以外にも大切なものがたくさんあります。
香川県では小豆島オリーブ協会等の主催でスペインアンダルシア州政府と交流を続け、講師を招いてカタドール(オリーブオイルテイスター)研修を何度も行い、オリーブオイルの味と香りのわかる技術者を育成し、その技術者が採油・ブレンドを行っています。
日本はスペイン、イタリア等に比較するとオリーブオイル生産に関する情報が遅れていました。私もイタリアやギリシャ等の国際シンポジウムなどには積極的に勉強に行き、新しい情報を入手するようになりました。

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― イタリアでは、どんな収穫を得たのでしょうか。

柴田:
オイル専用の新しい品種の導入もありますが、イタリア製の「小型採油機」の導入が国内小規模オイル生産の転機を迎えるきっかけとなりました。
それまでは、収穫した350〜400kgの果実を採油する大型機械しかなかったため、せっかく果実を収穫しても品種ごとや小規模生産者ごとに採油することができませんでした。
このイタリア製小型採油機の導入によって、50kg単位での採油が可能となり、各生産者がこだわりをもって栽培収穫した果実、それぞれの収穫適期に、果実粉砕や撹拌、遠心分離機の調整をしながら採油することが可能になりました。

― 各生産者の果実を混ぜ合わせて採油していたオイルが、各農園別のオリーブ果実のみから採油できるようになったのですね。

柴田:
まさにそのとおりです。それぞれの農園が品種別成熟期別果実のブレンドや、採油技術の工夫などオリジナリティを追求し、切磋琢磨(せっさたくま)しながらより風味の高い、より高品質のオイルへと成長していきました。

日本では「エキストラバージン・オリーブオイル」という表示はただの商品名でしかないという事実

写真「FOODEX JAPAN2016」の柴田氏ナビゲートによるオリーブオイルテイスティングの体験セミナーの様子。

― 日本のスーパーなどで販売されている「エキストラバージン・オリーブオイル」は、国際規格にあっていなくても、罰せられないという話を聞いたことがあります。

柴田:
日本の規格はCODEXやIOC等の世界基準と違っており、「エキストラバージン・オリーブオイル」という区分がないためただの商品名でしかありません。
IOC等の国際規格で「エキストラバージン・オリーブオイル」と認められないオリーブオイルを、日本で「エキストラバージン・オリーブオイル」という呼称で販売していても法的に問題はありません。

― 日本にはそのような規格と定義がないということでしょうか。

柴田:
日本で制定されている日本食品規格には「食用オリーブ油」、「精製オリーブ油」の区分がありますが、まだIOC国際取引基準に準じた国内規格は制定されていません。現状において「エキストラバージン・オリーブオイル」という規格そのものがないということです。国際基準に適応した「エキストラバージン・オリーブオイル」を消費者の皆さんがお求めいただくには不便だと思います。

― 日本に国際基準の適合した品質基準がない中、香川県小豆島では品質の良さを訴求するためにどのような取り組みをされていますか?

柴田:
オリーブオイルの品質基準としては多くのものがありますが最も汎用的なものがIOC基準です。IOCは加盟国始め、非加盟国のオブザーバー等の意見を聞きながら、基準項目や基準値その分析方法について定めています。
海外にはIOC基準の他、IOC基準やその分析法を用いた品質認証・表示制度・団体があります。 香川県でも2014年からIOC基準やその分析法を取り入れた「かがわオリーブオイル品質表示制度」を開始しています。これはIOC化学検査のうちの品質基準と官能評価基準を取り入れた制度です。

― 化学検査や官能評価とは、どのような検査をするのですか?

柴田:
化学検査には2つの目的があります。一つはオイルの安全性を含めて品質を見るもの、そしてもう一つはオリーブオイルの真正性すなわち混ぜ物がないかを見るものです。これらは特定のパラメーターだけで評価するものではなく総合判断であるという点が重要です。 次に官能評価ですが、バージン・オリーブオイルはご存知のようにオリーブ果実から採ったジュースそのものですからその味や香りが評価の対象になります。果実本来の“フルーティ”さや香りがどれくらいあるか、苦味や辛味の強さなど良いオリーブオイルの特性を確認します。また不適切な果実、間違った採油法は香りなどに欠陥が生じますのでそれらの有無・強度も確認します。
それらは人間の感覚で評価します。人間の感覚という不確かなもので評価を行うために再現性を持ち、科学的に正しい結果を出すための手法を開発・確立し、規定に定めています。8~12名の訓練されたテイスター(評価者)グループで実施し統計処理を行います。また方法に間違いが起きないよう経験を積んだパネルリーダーが運営管理します。

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― 香川県農業試験場小豆オリーブ研究所では「官能評価室」の整備を計画中と聞きました。

柴田:
IOCではオリーブオイル官能評価室(テイスティングルーム)の規定を定めています。同一条件で官能評価を行うために検査ブースの仕様を定めており、テイスティンググラス加温器等のブース内の設備や室温等が細かく定められています。
研究所ではその規定にそった国内初のオリーブオイル官能評価室の整備について計画しています。現在は規定の簡易ブースで評価していますが、周囲の影響を排除した評価室の完成が待ち遠しいです。

― 最後に、柴田さんがお勧めするオリーブオイルの召し上がり方を1つ、教えてください。

柴田:
1つですか? それは困りますね。いつも何にでもかけて食べていますから(笑)。とにかくどんな料理にも合う素晴らしいオイルです。しかも、健康にもよいというお墨付き。ぜひ、みなさんも普段の食卓に取り入れてみてください。

プロフィール

プロフィール

柴田 英明さん/香川県農業試験場小豆オリーブ研究所 主席研究員
国内唯一のオリーブ研究所の研究員。専門はオリーブの品種と栽培に関すること。 小豆島におけるオリーブ品種の導入や採油機械の導入にも尽力。 小豆島を海外産地と競争できるよう助言し、産業界を誘導。 小豆島のカタドール(オリーブオイルテイスター)制度導入の企画運営担当者。 香川県オリーブ品評会園地部門、オイル部門のオーガナイザー、審査員。 国際園芸学会編『Following Olive Footprints (Olea europaea L.)』(ISHS) 2012, Japan chapter 執筆。
所属学会 国際園芸学会 香川大学卒

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